「せいぜい太らないように気をつけるんだな」


「なっ・・・!!!」




櫻井さんはいつものにやり顔を浮かべていた。

なんだか悔しくなったけれど、それで奢ってもらうことが気にならなくなったのも事実だ。



人に食事を奢ってもらうのは、得意ではない。

それを知っているからこそ、上手に奢ってくれる櫻井さんがとても有り難かった。


そういう先回りが出来るのは、櫻井さんだけだ。

いつもどこか冷静で、やっぱり大人の男の人だな、と想う。



隣で篠木がくすくすと笑っている。

綺麗な顔をくしゃくしゃにして笑う顔は、時々松山よりも幼い感じがする。




「篠木もそんなに笑わないの!もう、二人してそんな態度なら、このまま帰りますからね」




そう言って窓の方へ顔を向ける。

きらきら光る海が眩しくて、少し目を伏せた。




「まあ、そう言うな。会社にしぐれがいないから、なんか締まらないなって、昨日話してたんだから」


「そうですよ。時雨さんに会うとほっとしたんですよ。あぁ、仕事してる、と思って」




そう言われると何も言えなくなってしまうので、狡い。

松山と違って、篠木はしっかりと押さえどころをわかっているので、厄介だ。

頭の回転のいい二人に、一人で対抗するのは無駄な抵抗だと悟った。