「で、函館でいいところはないか?って聞いておいたんだよ。しぐれに奢ってやれ、って怒られたしな」


「そういえば、水鳥さんからメモみたいの渡されてましたよね?もしかして、それですか?」


「そういうこと。クライアントもメーカーだから、多少キザっぽいところ押さえとく必要もあったしな」




そういう根回しは、櫻井さんの得意分野だと思った。

相手を満足させる術を、この人はいつも探している。


そして、さりげなさが、その努力を上手く隠してくれている。




「それと、休みのしぐれにちゃんとお詫びしろって言われたし」




それを聞いて笑いが漏れる。

水鳥さんらしいな、と思って。


そんなに気にしてくれなくても、ワーカホリックの私には一日くらい何てことないと知っているはずなのに。

ちょっと鋭い目線で櫻井さんに詰め寄る姿が容易に想像できた。




「それは、水鳥さんに感謝しないといけないですね。もちろん、奢ってくれますよね?」




櫻井さんの真似をして、意地の悪い顔を向けてみる。

上手く出来たかどうかはわからないけれど、顔の筋肉がちょっと疲れそうだった。




「最初からそのつもりだよ。俺のいるうちは、全部コッチ持ちだ」




そう言ってカップをことり、と置いた。

目線を上げて私の方をちらりと見上げる。