キザな台詞も、甘い言葉も、彼にかかればそれは最高のものになる。

こんなにもふらふらとした気持ちになるなんて、絶対に変だ。

湊を想い出したまま、見ず知らずの人と飲んだりしたからに違いない。



どうにかしてこの場から離れる方法を探したけれど、上手い理由すら浮かばない。

まるで、初恋に浮かされた中学生のように、地に足のつかない気持ちでいた。




「帰る言い訳は見つかりそう?」


「えっ!?あの・・・っ!それは・・・」


「顔に、全部書いてありますよ」




にっこりと笑った顔が私の様子を伺っている。

微動だにせず見つめられる視線に、思わず目線を返す。



笑っていてもわかる。

大きな黒目。

森川よりもずっと大きな黒目は、まるでカメラのレンズのように私を写している。

この人の目は、相手の自由を奪う目だ、と想った。




『ブーーーッブーーーッ』




機械的な音が私の奥から鳴っている。

その音にはっとして目線を外す。


彼は気にも留めない素振りで、静かにギムレットを流し込んでいた。




鞄に手を伸ばし、相手を確認する。




『南 水鳥』




やっぱり。

そろそろ家に着く時間だ。

そのまま電話に出ることは出来なかったけれど、携帯を握り締めて彼を見る。




どうかした、と言うような優しい目線が私を見ている。