「母親が不倫をして生まれたのが自分だ、ということは知ってた。それが、どれだけその家庭を苦しめることかもわかってた。だから、目の前にその家庭で生きてきた人がいることに動揺したのは、俺のほうだった」




不倫の子供。

いつも自分をそんな風に思ってきたのだろうか。



声に苦しさが滲んで、思わず圭都さんに手を伸ばしてしまった。

無意識にこの人の手を握ろうとするほど大切になっているのだ、と、こんな時に実感するなんて。



手を握ると、そっと笑ってくれた。

笑い返すことは出来なかったけれど、じっとその顔を見つめていた。




「湊は言ったんだ。『生まれてくることに意味はある』と。『この世にいることが、何より大切なことなんだ』と」




湊は圭都さんを救いたかったに違いない。

どうして自分の父親がそんなことを、と思いながらも、それよりも苦しんできた圭都さんを感じていたのかもしれない。




人の気持ちに敏感な人。

そういう人だから。




「その後、わざわざ俺の家まで来てくれたんだ。自分の母親には知られたくない、と言って。俺たちのことは自分の胸の中だけにしまっておきたい、と」