「湊が兄貴だとわかったのは、俺たちが大学で出逢った時だった。俺たちはあまりに似過ぎていた。他人には思えなかったんだ」




墓碑を触っていた左手は、私を抱き締めに戻ってきた。

両手で抱き締められた身体は、どんどん力が抜けていった。


ただ雨に打たれている圭都さんの肩越しに、ぼやけた景色を見ていた。




「時雨、車に行こう。このまま話をするには、今日は寒すぎる。震え、止まらないじゃないか」




どうすることも出来ず、ただ小さく頷いた。

腕を引かれて何とか立ち上がり、車まで歩いた。



一度振り向いて雨に打たれる灰色の塊を見つめた。

やっぱり現実味がなくて、此処はずっと変わらない場所で、其処に湊の面影は残っていない気がした。




「後ろに乗って。ゆっくり、話をするから」




促されて後部座席に乗り込む。

いつもとは違うシートの感覚に、しっかりと体を預けた。


頭の中がぼんやりしたままで、これから語られる圭都さんの過去についてを、理解できるのか不安になった。




「タオル、使え。そのままじゃ風邪ひくぞ」




トランクに乗せていたらしいタオルを差し出しながら、圭都さんが運転席側の後部座席に乗り込んできた。

渡されたタオルからは、圭都さんのつけている爽やかな香水の匂いがした。