「櫻井君はね、こう言ったわ。『今の湊が本物の湊ですよ』って」


「本物・・・」


「大切なものだけを大切にし、それ以外のものに優しくしない優しさを持っている人。山本君が笑うと、手も足も出なかったのよ」


「・・・ふふふ」


「あら、心当たりがありそうね」


「えぇ。湊らしい、と想って」


「そう」




よかったわ、と言って水鳥さんは手に持った御猪口をくいと飲み干した。


今になって湊の大学時代を垣間見ることが出来るなんて、想ってもみなかったから。

嬉しいやら悲しいやら、なんだか分からない気持ちになった。



やっぱり女の人が周りに沢山いたことは、私の胸をとても痛くしたけれど。

それでも、私と向き合ってくれた湊を、やっぱりとてもいとしいと想った。

私の信じた湊は、ありのままの湊だったのだと、信じることが出来て本当に良かった。




「シグのことを知ったのは、随分後になってからなのよ。櫻井君に聞いたことだから。大学のころ、櫻井君と山本君はよく一緒にいたから」




そういえば、櫻井さんもそんなことを言っていた。

いつも湊と一緒にいた、って。




「二人ともサークルが一緒でね、いつも二人でいたのよ。何か困ったことがあると櫻井君は飛んでくるのよ。その頃から櫻井君の話は筒抜け。それでたまに、口を滑らせて山本君の情報も入ってきた、ってわけ」