私が喫煙者であるということは、どうやらとっくにばれていたらしい。
煙草を吸うと言ったらイメージが良くないと思って、今までわざわざ自分から言うことはしてこなかったのだけれど、彼は案外ふつうで、それどころかそんな私に興味を示しているようにさえ見えた。
ほっと胸を撫で下ろす。
いい加減禁煙を考えていたところだったのだ。

煙草をくわえた私の顔を、矢野くんが小動物を思わせるようなくりくりと丸い、きれいな目で見つめてくる。
そんなに見られると、吸いずらい。
・・・・やっぱりやめた。
今は、矢野くんと話をすることに集中しよう。
煙草を箱に戻そうとする私に、吸わないんですか?と彼は訊いてきた。


「うん、」

「何で?吸えばいいのに」

「うーん、でも」

「じゃあ、一本ちょうだい?俺が吸ったら、宮内さんも吸ってくれるでしょ?」


そうやってにこにこ笑う彼は、間違っても成人を迎えているように見えない。
私より二つ年下だから、もうとっくに、ハタチを越えているはずなのに。
まだ、学ランとか、余裕で似合ってしまいそうだ。

そんな彼に煙草を与えるのは、なんだか気が引けた。
きらきらの上目使いに負けてしまいそうになりながらも、首を横に振ってなんとか堪える。


「だめだよ」


私の中の一握りの善意が、口にした。
箱に戻しかけた煙草を再びくわえる。


チッ

えー、と子供みたいに足をばたつかせる矢野くんを横目に、ライターを鳴らした。
ちりちり、煙草の先を焦がすように火をつけて、有毒なケムリをゆっくりと飲み込む。

くわえた煙草を口から離そうと、手を持ち上げた、その時。

タッチの差で、私の唇からソレは奪われていた。

犯人は、言うまでもなく、目の前の小動物だ。