バシッ


後頭部に衝撃が走り、我に返る。
ついつい、矢野くんの綺麗な横顔に見とれてしまっていた。

どうやら私は、誰かに思いきり頭を叩かれたらしい。

犯人に、おおよその見当はついている。
ていうか、いきなりこんなことするなんて、アイツしかいない。
頭を押さえて振り返ると、そこには仏頂面で私を見下ろす、思った通りの人物がいた。


「なにすんのよ、中谷」

「仕事しろ、給料泥棒」


眼鏡の奥の目が、私を冷たく睨んでいる。
確かにバイト中ぼうっとしていたのは事実だけど、それがひとの頭を叩いて良い理由にはならない。
少し目の保養に見ているくらい、許して欲しいものだ。
私の身の回りには、例えばこんな、中谷のような男しかいないのだから。
涙目で睨み返すもあえなくスルーされ、中谷は仕事に戻っていった。

私たちは現在、ガソリンスタンドという、何とも色気のない場所で働いている。
男の多い職場なのに、何故私は、こんな愛想と表情筋をどこかに落としてきたような男としか縁がないのだ。

もう少し、矢野くんと仲良くなりたいのに。