「ユキ、こっちこっち」
名古屋駅、新幹線ホームに降り立つと、雄一が階段の降り口付近で手招きしていた。
「急いだ、急いだ、予定山積みなんだ、直ぐバスに乗るぞ」
雄一は由貴が引いていたキャリーバックを右手に取ると、左手で由貴の手を引き早足で歩き出した。
「昼前にお城、登ろうぜ」
新幹線からも見えていた名古屋城。
どうやらそこが最初の行き先らしい。
城址公園前でバスを降りると、二人は目の前にそびえ建つ名古屋城を仰ぎ見た。
3月の青空に、白いお城が映えている。
「本物は大戦の空襲で焼けたそうだよ。
今のお城は昭和の20年代に再建されたもの。
それでもこれだけのものをまた建てるって、どんだけこの城に愛着があったのかって話だよな」
チケット売り場で徳川園との共通券を買う。640円。
子供連れや、老夫婦に混じってお城の天守閣に登った。
そこからは市内が一望できる。
幸運にも、今日は雲ひとつない晴天。
「わぁ〜、凄い眺め」
「殿様の気分だな」
「金の鯱(シャチホコ)だしね」
「天下を治めなきゃ、って気持ちになるなぁ〜」
由貴は雄一の横顔に目を移す。
不思議な幸福感が込み上げていた。
「ユウくん」
「ん?」
「ありがとう、誘ってくれて」
「こちらこそ、来てくれてありがとう」
雄一が暮らしたこの名古屋の景色。
それを雄一と二人で見れたことが、単純に嬉しかった。