「それでも、わたしはわたしの今できることをするまでよね」
元来くよくよ悩むことが苦手な幸恵である。
弘幸が突然大学を辞めてきたきた時も、美亜を拾ってきた時も。
驚きこそしたが、納得するのも早かった。
美亜の言葉はまだ戻らないが、笑顔を見せる機会も多くなった。
由貴や沙希の世話を焼くことで、美亜は母としての役割を見い出し、生きがいを感じているようだ。
幸恵にしてみれば、もっと外へ目を向けて自分の為に生きる道を模索して欲しいところだが。
その先へ進むには、何かきっかけが必要なのかもしれなかった。
由貴は進学を目指して勉強を始めている。
後ろ盾の無い女が頼ることができるのは、自分の能力と可能性への自信。
幸恵は身に染みてそれを実感する一人でもある。
目標を持つことで、由貴が未来に希望を見つけられることを幸恵は願っていた。
頼りない息子であるが、彼女達への係わりは功を奏しているように見えた。
あと残るは沙希だ。
弟との関係を見る限り、彼女が家族との縁を切ることを望んでいるとは幸恵には思えなかった。
確かに、今ここで無理強いするのは得策ではないが、これからの展望に道筋をつけておく価値はある。
同じ母として、幸恵は沙希の母親にも後悔はして欲しくなかった。
わだかまりや誤解があるとしても、彼女の娘は少なくともまだ生きているのだから。