亜里寿より不幸な境遇に生まれた子供は沢山いる。
幸恵が取材を続けている、サラエボの子供たちだってそうだ。
死ぬか生きるかの極限状態に置かれると、人は生きることを渇望するものだ。
それが生命力、人間の本質だと幸恵は思っている。
たとえいじめをうけていたとしても、死を選ぶしか選択肢はなかったのか?
彼女をそこまで追い詰めたのは何だったのか?
亜里寿から生きる気力を奪った本当の理由は何だったのか?
そこにもし自分がいて、亜里寿を抱き締めてやることができたのなら、彼女は死を思い留まってくれただろうか?
母としての幸恵にそんな力があったのだろうか?
そう、ここにいる美亜だって。
美亜だって亜里寿以上の苦しみを味わってきた。
それでも美亜は生きてここにいる。
生きたいと願う心が苦しみに勝ったのだ。