「つ……ついてる訳ないでしょ! “喰わず女房”じゃあるまいし!」


洗面所から顔を覗かせた郁生くんは、


「なにー? “喰わず女房”ってー??」


「……日本の昔話に出てくる妖怪。

髪の毛がパックリ割れて、頭についた口で、握り飯バリンバリン食べる……」


すると───洗面所から愉しげな笑い声が聞こえてきた。


あたしが食べ終わって、お皿やマグカップを片付けようとすると、

郁生くんが戻ってきた。


「トーコさん、いろんな話、よく知ってるよね。

“喰わず女房”なんて初めて知った」


「職業……っつーか、学部柄だよ。エライでしょ」


「あー、そっか。教育学部だもんね。朝からウケた」


「そりゃ、どーも……

───もー、早くしないと入学早々、遅刻するよ!」


「はいはい」


いつまで笑ってんの……と、

まだ思い出し笑いをしている郁生くんに、マグカップを手渡した。