「───着いたよ、トーコさん……」



郁生くんの声に、はっと我に返ると……

……夢と同じように、ひらひらと風に舞う桜の薄紅が、目に飛び込んできた。


違うのは───木々の隙間から洩れるのが、

月光ではなく、陽の光であること。


肌寒くはあるものの、

風も、そして泉の水面も凪いでいて、

………あたしは、ほっと息をついた。



「な、……なんだー! ……別になんともなかった!」


「トーコさん? ───ホント?」


「うん。熱出したせいで、怖い夢見ちゃったのかも……」


軽く笑いながら───あたしは、桜の姿を映す水面を覗き込んだ。


………夢の中の“あたし”と、同じように。



美しく散った桜の花びらが、頼りなげにユラユラ揺れる。


その中に、───あぁ、なんで見てしまったんだろう。



あの夢の続きを、




鏡のように透き通る泉の、その水面に…………