「………なんか良いことあったの?」
「え? なんで??」
「だって、ついこの間までこーんな顔してたのに」
眉尻を人差し指で下に引っ張って、“困ったちゃん”な表情(カオ)を作って見せると、
「なにそれ………」
ぷっ…と吹き出した郁生くんが、
「こっちの間違いじゃない? 『トーコはやらんぞー!』って」
つり目にしておどけた。
「ふふ……あたしも、頑張ろーっと」
「うん」
「郁生くんも…」
「ん?」
「何かあったら、言ってね」
「………その時は、甘えさせてもらいます、おねーさま」
「だから……その言い方、なんかやらしーってば」
「トーコの頭ん中がそうだから、そう聞こえるんじゃないの?」
「違うー、もー!」
頬をふくらませたあたし、それを見て吹き出す郁生くん。
─────こんな穏やかな時間が、少しでも長く続けばいい。
そうささやかに願いながらも………現実はやっぱり残酷で。
あたし達の運命を大きく揺さぶる嵐が、もう、すぐそこまできていることに、気づきもせずに、
笑いあっていた────………