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「大丈夫……続けて」


なんとか、涙を止めたものの、顔が上げられなくて、

あたしは、郁生くんの腕の中で呟くように言った。


「うん……」


郁生くんが頷き、そんなあたしの髪を優しくすいて、話し始めた。


「無力な自分にはどうにも出来なくて───

『澪を助けて』って、
『どんな方法でもいいから、ここから逃してくれ』って、
兄上に頼んだのは、俺……。

それで………澪の婚姻が決まった。

ほとんど死にかけてた俺は───『もう、面白味がない』と判断されたのか、
俺のせいで切腹させられた柏原の親戚筋に「好きに扱え」と“永預かり”と称して、放り出され……

兄上が上手く計らってくれたのと、密かにしたためられていた柏原の遺言状の文言で、なんとか生かしては貰えたけど……

澪の無事を見届けることも、まして、一目見ることさえ叶わず、故郷を追われてしまった」