「なんで…さ……そんなの、覚えてんの……?」
あの夜と同じように、……郁生くんが、うろたえ始める。
恥ずかしそうに手の甲で口元を隠して、
あたしから必死に目を逸らしてる彼に───愛しさが込み上げてきた。
「覚えてるよ───あの時……ショック、だったから……」
どうしよう……好き……
「……あれは……夢見て……寝ぼけてて……」
「夢で───“澪”を……私を、呼んだの?」
まるで大切なものに、触れるように、
髪に……キスをしながら…………
「あー、もう! ───酔っ払いなんだから、余計なこと思い出さないの!」
そう、あたしの言葉を散らして、
郁生くんは──海の時のあたしと同じように──立ち上がると、
真夜中の大学構内を、早足で歩き出した……