「まだ親には話してないけど……向こうは9月が新学年だから、ちょうどきりがいいしね」


そう言いながら郁生くんは、ボディバッグからお財布を取り出して、

体育館入口の脇にある自販機にお金を入れた。


「親の転勤決まった時、『一緒に行くのめんどくさい』って答えたけど、

───考えてみたら、貴重な経験だしさ?」


パッと明るくなった自販機のランプに照らされた横顔は微笑んでいて、


「ほら、帰国子女ってのも、格好いいでしょ?」


差し出された十六茶を受け取らず、そんな郁生くんを見つめていたら、

郁生くんから───笑みが消えた。