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郁生くんと海へ行ったその日の夜。
───あたしは、焦って車を飛ばしていた。
郁生くんと海岸で別れた後、電車で折り返し……
大学に戻る気にはなれず、適当に時間を潰し、
夕方からバイトに行ったあたし。
バイトでの失敗話はさておき……、
夜8時頃に帰宅すると、母親が少し心配した表情で、ケータイ片手に、玄関へ出てきた。
「ねぇ……郁、今日何かあるって言ってたっけ?」
いきなり郁生くんのことを振られて、ドキッとしつつも、
努めて平常心で、
「さぁ? ……明後日からバイト、みたいなことは聞いたけど?」
そう答えた。
「連絡なしにこの時間になること、なかったのよね……。
携帯かけても、繋がらないし……」
確かに……うちの母親に心配かけないように、と、
何か用事の時には、必ず伝えていたようだし、
まして、ケータイに出ないなんて……。