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通勤通学とは反対方向の下り電車内は、

あたしがさっき乗ってきた電車のようには混んでいなくて。


あたしは呼吸を整えると、ドア付近から移動した。




「………こらっ、不良こーこーせぇ」


以前言われたセリフを真似て、

郁生くんの肩をポンッ!と叩く。



「…………」


こちらを一瞬ジロリと睨んで、


───でも、無言で車窓に視線を戻してしまった。


………あらら?



「……おーい…郁生くーん……?」


遠慮がちに、もう一回声を掛けると、



「───……トーコさん、学校は?」


目線は相変わらずのまま、そんな返事が返ってきた。


……ちょっぴり怒ったような声で。

ため息混じりに。