駆けていった小さな背中が角を曲がって見えなくなった。

……きっと、また泣いてる。

そしてまた、自分で涙を拭うんだろう。

なんて。

そんなことを考えて、誰の前でも泣くわけじゃない、という雫さんの言葉を真に受けていることに自分で驚いた。


……べつに。

俺には、関係ない。

雫さんが、廊下の角を曲がったあと、誰のところに行くのかなんて。


「……そうだな。戻るわ」


視線を三浦に戻して頷くと、「頑張ってね」と優しく背中を押され、つられて「おまえもな」と笑った。

そして、グラウンドに戻ろうと方向転換。


だけど一歩足を進めてすぐ、立ち止った。



────さっき、頑張れと言ってくれたとき。

三浦、本当に笑ってたか?


……気のせいかもしんないけど。

なんだかつらそうじゃなかったか?


なぜかそんなふうに思って、振り返った。

だけど彼女ももう来た道を戻ろうとしていて、見えたのはどこか元気がないように見える後ろ姿。


「み……」


呼び止めようとして、しかし思わず口をつぐんだ。



『ふたりがキスしてるとこ、だよ』


突然脳裏によみがえってきたのは、雫さんの涙交じりの澄んだ声。


ああー、もう。

せっかく考えないようにしてたのに。


「……三浦!」