Tシャツを握っていた指をほどいて、ゆっくりと俺の顔に手を伸ばしてきたその動作に、どうしてか拒否しようという頭が働かない。

優しくポン、と一度頭に触れただけのてのひら。

その手が引っ込められるまで、身動きひとつできなかった。


「本当だよ。……水原くんだから、傍にいて欲しいって思ったの」


ニコッと目を細め、笑った瞬間。

ポタリ、と目の淵から零れていった一粒。


さっきまで、彼女が際限なく落としていた滴(しずく)なはずなのに。


その一粒が頬を伝っていくのを、胸が強く締め付けられるような心地で見ていた。



「……強がってるの、バレバレなんすけど」


「やだなぁ、強がってなんかないよ?」


あはは、と笑うその声は、微かに震えていた。


「……傍にいて欲しい、なんて本当はあの人以外に言いたくないくせに」


「やめてよ。そんなことないってば」


……いつも、ニコニコ笑ってて。

話し方も、声も、表情も、全部柔らかい。

ふわふわした、女の子らしい女の子。


雫さんのことを、そんな風に思っていた。