雫さんの綺麗事は、俺にそう言わせるための言葉だったと分かっていても。

まるで雫さんに誘導させられるように、バカみたいな正論を口にすることしかできない。


そんな俺に、雫さんは満足気にふわりと笑顔を浮かべた。



「うん。……ありがとう」


「なんでお礼なんか」


「水原くんは絶対に私のところに来てくれるってわかったから」


はっきり告げたその声に、もうさっきまでの痛みは残っていなかった。

雫さんの目元に、頬に、鮮明に残る涙のあとに違和感を覚えるほど、今の雫さんには傷が見えない。

……裏切られたと嘆いていたさっきの姿が嘘みたいだ。


「……俺、雫さんのこと全然分かってなかったみたいです」


「そうなの?」


クスッと笑った雫さん。


「勘違いしないでね。私だって誰にでもこんなこと言うわけじゃないし、誰の前でも泣けるわけじゃない」