自嘲したように言葉をこぼす雫さんに、俺はなにも言えなかった。
俺がどんな言葉をかけたって、余計に彼女を傷つけてしまうような気がして。
それに、なにより。
「……俺、基本的には自分で見たものしか信じないんです」
そんな見栄を張ってしまうくらいに、信じたくなかったから。
もしかしたら、雫さんの見間違いかもしれない。
勘違いかもしれない。
キス、なんかじゃなくて。
なにかの拍子に唇が当たってしまっただけ。
それだけの、事故かもしれない。
有り得ないことはわかっていても、そんなふうに都合よく考えてしまいたい自分が勝った。
「三浦から聞くまでは、その話、信じないことにします」
半ば自分に言い聞かせるような口調でゆっくりそう言うと、雫さんは驚いたようだった。