「あ…池谷くん」

「ん?」

あたしはもう一度「昨日はありがとう」と頭を下げた。


「あのあと、親に話してみたんだ。進路のこと。行きたい大学を見つけたら、言うって」


そうしたら、お母さんは少しの間驚いたようにあたしを見たあと、『そう』と微笑んだだけだったんだけど。

昨日、相談にのってくれたし、一応池谷くんには言っておきたいと思った。


「…そっか、うん。あ、大学決まったら、俺にも教えてね」


そう言って笑う彼に、やっぱりいい人だなぁと感じる。

あたしは「うん」と頷いて、笑った。


「えっ、なになに。ふたり、昨日何かあったの?」


利乃があたしの肩越しに、ひょこっと顔を出す。

苦笑いしながら、「あたしが傘忘れてさ」と言った。


「池谷くんに、駅まで送ってもらったんだ」


あたしがそう言った瞬間、利乃とトモの顔が少しだけ、変わったような気がした。

…えっ、なに。

けどすぐに利乃が、「そうだったんだー」と明るい声を出す。