何も言わずに前を向いた池谷くんに、あたしは慌てて口を開いた。
「ー…ごめ」
「小城さん」
謝ろうとしたのを遮るように名前を呼ばれて、あたしは思わず口を閉じた。
彼は、前を向き続けている。
「…普通なんて、ないよ。その人の特徴なんて、探せばいくらでもある」
優しい声色で話す池谷くんを、あたしはじっと見つめていた。
…雨音が、響く。
あたしのなかの何かが、騒ぎ出そうとしている。
「些細な違いだって、それだけでその人が他と違うってことになる。例えば、ものの感じ方とかさ」
彼は傘を少しだけ上げて、手を前へ伸ばした。
パチャパチャと、その手に雨水が落ちる。
ポタポタと、雫が落ちていく。