あたしの困惑した表情に気づいたのか、池谷くんはハハッと笑った。


「ごめんって。冗談だよ」


…わかりにくっ。

たぶんあたし、この人がいきなり『宇宙人になりたい』とか言い出しても、今なら受け流せる気がする。

…変な人。


でも、笑顔が無邪気で可愛い人。


「…海になりたいっていうのも、まぁ、嘘ではないんだけどさ」

池谷くんは、穏やかに目を伏せる。

…嘘じゃないんかい。

雨が小降りになってきて、彼の声がよりハッキリと聞こえてくる。

あたしは静かに、「うん」と相槌を打った。


「…海ってさぁ、見てると安心するじゃん」


そのとき、この近くにある小さな海を思い浮かべた。

白い砂浜があって、テトラポットが広がっている。

確か、学校の窓からも見えたはずだ。

潮風が気持ち良くて、ずっと見ていたくなる、水の空間。