「野々村さん…今の話は忘れて下さい。
俺だってこんな話……」

「い、いえっ!」

野々村さんはそう言って首を振る。



「わ…私……私…信じます。」

小さな声でそう言うと、野々村さんはペットボトルのお茶に口を着けた。



「……ありがとう、野々村さん。」

ほっとした。
本心はどうであれ、彼女が信じると言ってくれたことに。
俺が話したことは常識の域を越えている。
信じられなくて当然のこんな話を信じると言ってくれたのは、俺に協力するということだと解釈して間違いないだろう。



「あ、青木さん、私、頑張ります!
この世界から伝わることはまだまだたくさんあるんです。
私…頑張って書きますから…!」

「本当にどうもありがとうございます。
あなたと知り合えて…本当に良かった。
野々村さん、無理せず、あなたのペースで書いて下さいね。
とりあえず、何か食べに行きましょうか。
それとも、ピザか何か取りますか?」

「わ、私はどちらでも良いので、青木さんにおまかせします。」



俺は宅配のピザを注文し、野々村さんと一緒に食べた。
彼女の様子は、今までよりどこか打ち解けた感じがした。
俺があんな話をしたから、俺のことを少しいかれた可哀想な奴とでも思ったのか…



「では、今は俺の仕事だけされてるんですか?」

「ええ…私…
不器用なものですから、一度にあれこれたくさんのことは出来ないんです。」



俺はてっきりいくつかの仕事をかけもちしているのだと思っていた。
ブログの仕事だけでは、そうたいした給料ももらってないだろう。
彼女がいつも質素な身なりをしているのは、そのせいかもしれない。



「あ、そうだ。
野々村さん、今回の仕事の報酬について、まだお話してませんでしたね。」

「……今回のことにお金はいりません。
私、ただ、青木さんのお手伝いがしたいだけなんです。」

「そんなわけにはいきませよ。
あなたのこの能力はとても素晴らしいものだ。
出来る限り…」

「わ、私……」

俺の話の途中で、野々村さんが口を挟むのは珍しいことだった。
その時の野々村さんの表情は、とても強張っていて…



「素晴らしくなんか無い……私、こんな能力なんて、ほしくなかった…」

消え入りそうな声で、野々村さんはそう呟いた…