なぜならそこに書かれていた内容は、真実としか想えないことだったから。

門をくぐったシュウと美幸は、無事にシュウのいた小説の世界に戻った。
しかし、そこで美幸は自分のしでかしてしまったことに対して深く後悔する。
後悔というよりは、今までとはまるで違う世界に来てしまった事での不安感とでもいうべきか…そういうものに飲みこまれ、精神的に相当追い詰められていたようだ。



(当然のことだな…可哀想に…)



俺は、母さんのことをずっと見てきたから、美幸の苦しみが痛い程わかった。
母さん達が苦しんでいる時、美幸もまた同じように苦しんでいたのかと思うと、俺は酷く胸が痛むのを感じた。



だが、そういう危機的な状況も、シュウの支えがあって美幸はなんとか乗り越えられたようだ。
俺はその部分を読んでほっと胸を撫で下ろした。
最近では賢者にその世界のことをいろいろ教えてもらいながら、なんとかこっちと連絡を取りたいと考えているようだが、賢者はそんな方法はないと言っている。



「野々村さん、本当にどうもありがとうございました。
たった三日でこんなにたくさん打ちこんで下さって…」

「い、いえ……
まだまだなんです。
まだまだ書く事はあるんですが、書ききれなかったんです。
それと……」

「……野々村さん?どうかされたんですか?」

「……あの…実は……えっと……」

野々村さんは何かを言いたそうに…でも、とても言いにくそうにして躊躇っていた。



「野々村さん、はっきりおっしゃって下さい。」

「………じ、実は……
書いていてとてもおかしな感じがするんです。
感じるエネルギーが強いっていうのか、まるで、自伝を書いてるような…
つまり……この物語が作り事ではなく本当のことのように感じるんです。
そんなことありえないのに……」



そう…こんなこと、ありえる筈がない。
現実の事だなんて信じられるはずがない。
だけど、野々村さんは感じている。
これが普通の小説と違う事を…



俺は、追い詰められた気分だった。
野々村さんに真実を話すべきかどうかの決断を下す時が来たんだと感じた。