「野々村さん、お呼び立てして申し訳ありません。」

「い、いえ…そんなこと……」

俺は、先日の鍋料理屋へ野々村さんを呼び出した。
彼女は突然の俺の呼び出しに快く応じてくれた。



「あ…あの、私、何か……
も、もしかして、こないだのことが……」

いつも以上におどおどする野々村さんに、俺は首を振った。



「そうじゃないんです。
実は……ブログのこととは別に、野々村さんに仕事をお願いしたいんです。
仕事…と、いいますか、僕の個人的なお願い…に、なるのかな…」

「え……?」

俺の曖昧な説明がよくわからなかったのか、野々村さんは小首を傾げて俺の方をみつめた。



「えー…っとですね……」



俺自身、どう説明すれば良いのか、とても迷っていた。
まさか、「俺の妹は、自分の創ったキャラクターと一緒に小説の世界に行った」なんてことは言えない。
野々村さんの能力を知ってから、俺はなんとなくもやもやしたものを感じていた。
野々村さんのことが気にかかることとは別に、なにかが頭の中で形になりそうでいてそうならない…そんな感覚を感じているうちに、やっとそれが形になった。
とはいっても、まだはっきりとしたものではない。
ただ、野々村さんが美幸との連絡を取る手段を持った人なのではないかと…漠然とそう考えただけのこと。
連絡を取るというよりは、彼女の能力をもってすれば、美幸が今向こうの世界でどういう風に暮らしているのかがわかるんじゃないかと考えたんだ。
彼女の能力についていまひとつ詳しいことがわからないからなんとも言い難いが、美幸はもうこっちにはいないから、本人と接触は出来ない。
美幸の残したあの小説から美幸の潜在意識に入りこんで、そして、たとえば「続編」という形で書いてもらう事で、向こうの世界に行った美幸とシュウの消息がわかるのではないか…
俺はそんなことを考えていた。