「おかしなことを訊いてしまってすみませんでした。
でも……野々村さんを好きになってくれる人は必ずいると思いますよ。
変っていうか…まぁ、確かに野々村さんは少し変わった所はあるかもしれないけど、変わってることが悪いことだとは限りませんから。
たとえば、ほら、芸能界とか芸術に関わる人は、ごく普通の人じゃ出来ないじゃないですか。
変わっていることが個性と見なされ、武器となる場所だってあるんです。
きっと…野々村さんは今までそういう場所にいなかっただけですよ。
だから、どうかそんな風に思わないで下さい。」

「青木さん……
あ、ありがとうございます!
やっぱり、青木さんって優しい方なんですね。」

野々村さんはそう言ってメガネを外してハンカチで涙を拭いながら、俺の飲みかけの日本酒を一気に飲み干した。



「あ……」

「あ、あぁ……っっ!
う……あ、熱い!」

野々村さんは喉をさすりながら、顔をしかめた。
おそらく、水を飲もうとして間違えてしまったんだろう。



「野々村さん、大丈夫ですか?」

「は…はい…
大丈夫……です…」

野々村さんは、そう言って今度は自分の水をぐいっと飲み干した。
酒は飲めないと言ってはいたが、野々村さんが飲んだのはそれほどたいした量ではないから大丈夫だろう。



「ところで、野々村さん…
ブログなんですが…」

「ふふふふふ…」

不意に響いた低い低い笑い声に、俺は一瞬耳を疑い、あたりを見まわした。
俺は何も面白い事は言っていない。
そうでなくとも、野々村さんはあまり笑わない方だ。
聞き違いか、もしくはさっきのことをまだ引きずって泣いているのか?



「野々村さん…?」

「ハハハハハ…」

聞き違いではなかった。
やっぱり野々村さんは笑っていた。



「野々村さん、どうしたんですか?」

「ハハハハハ…なんだかわからないけど…
おかしくてたまらないんです。
ハハハハハ…」



そうか…
さっきの酒のせいか。
あれっぽっちとはいえ、酒に弱い野々村さんにはきいてしまったんだろう。
彼女はいつもどこかおどおどしているから、酒の力で少し開放的になるのも良いかもしれない。




「野々村さん、おかしい時はどんどん笑った方が良いですよ。
笑う事は良いことですから。」

「ええ、笑いますよ。
笑いますとも!
青木さんも笑わなきゃだめですよ。
あなた、心に重いものを持ってますからね。
いつもいつも気にしてますからね。」

「……野々村さん…それは一体…」

俺は、野々村さんの言葉に心がざわめくのを感じていた。