『すごく綺麗ですね。
それに、青木さん、写真撮るのがとっても上手ですね!』



画像があった方がブログのアクセス数が増えるらしく、これを機会に画像を多用するようにとマイケルに言われ、俺はふと目にした風景等を携帯のカメラで撮影してはそれを野々村さんに送った。
携帯のカメラなんて…と思っていたが、これが意外にもけっこう使える。
考えてみれば、一般的なデジカメと画素数は変わらないのだ。
レンズはやや落ちるにしても、これほど撮れるとは思っていなかった。
大きなサイズで表示しても遜色ない画像に、俺は今更にして驚いた。

俺が画像を送ると、いつもすぐに野々村さんは返信をくれる。
短くて絵文字もない素っ気無いメールだが…それでもなんとなくその文面を見るとほっとする。



(写真撮るのが上手って…
俺、一応、本業はカメラマンなんだけど…)



野々村さんからのメールに失笑し、俺は携帯をぱちんと閉じた。



彼女はとてもよくやってくれている。
送った画像を見て、俺が何を考え、何を感じたかを恐ろしい程的確にとらえては、それを俺の言葉で表現する。
なぜ、それほどまでにわかってしまうのかと訊ねても、彼女はただ「なんとなく」としか答えない。
短いとはいえ、毎日のようにメールのやりとりをするうちに、俺も「なんとなく」彼女に興味がわいてきた。
履歴書をみると、年齢は39歳。
見た目の印象からもう少し上かと思っていた。
ごく一般的な高校を出て、ごく一般的な大学に進み、その後は様々な職種の仕事を転々としている。
数年前にフリーのライターとして活動を始めてからは、ようやくそれに落ちついているようだ。
ただし、彼女がやっていることはライターはライターでもゴーストライターという特別な仕事だ。
そのため、以前、受けた仕事については絶対に話さない。
自分を売り込むためにはそういうことでもべらべらと喋る者もいるだろうに、彼女はそういう所はとても律儀に守っている。
ただ、とても有名な作家の仕事もしたことはあるようなことを少し聞いた。
その作家の体調が悪かった時に請け負ったそうで、そのことを彼女はとても誇りに感じているようだった。
作家自身からストーリーを聞いてそれを文章化しただけだから、自分はアイディアを出したわけでもなんでもなく、ただほんの少し手伝っただけだと作家をかばってもいた。
そういう所がいかにも彼女らしい。