「ご、ごめんなさい。
私…やっぱり、なにか…」

「あ、そうじゃないんです。
あまりに、俺っぽいっていうか…俺が言うのもなんだかおかしいですが、まるで自分が書いたみたいだから。
正直言って、これほどとは思ってなかったからちょっとびっくりしちゃって…」

「す、すみません。」

野々村さんは俺が怒ってないことを知ってほっとしたようだったが、それでもまたすぐに俯いてしまった。



「な、だから、すごいライターだって言っただろ?
今までは僕達がカズのスケジュールを伝えるだけだったんだけど、もしよかったら、これからはカズがちょっとしたことを野々村さんにメールしてくれないかな?
たとえば、行った先で気になったものとか…そしたら彼女はもっとカズっぽいブログを書いてくれるから。
ね、野々村さん、それで良いんだよね?」

「は、はいっ。
た、たとえば、目にした風景を写メしていただいても助かります。」

「わかりました。
それでは、次からそうします。」

「カズ…明日から、だよ。」

「……わかったよ。」



なんだか自分でも不思議な程、あっさりと承諾してしまった。
あんなにいやがってた筈なのに…
今でも、影武者を雇うということに抵抗がなくなったわけではないのだけど、なんといえば良いのか…
そこに書かれていたことは本当に自然で、俺が頭に思い浮かべたことをそのまんま代筆してもらったような感じで…それで違和感を感じないということかもしれない。
心の中を見透かされるというのはあまり気分の良いことではないのだが、野々村さんに対してはそういうことも感じなかった。
失礼なことを言ってしまえば、彼女が「女性」という意識をほとんど感じないせいなのか…
これが、男性だったり、妙に魅力的な女性だったら、また少し感じ方は違っていたのかもしれない。




「話がまとまって良かった。
そろそろ、鍋の方も出来て来たね。
さ、野々村さん、たくさん食べて下さいね!」

「は、はいっっ!」



マイケルにすすめられ、口に運んだ白菜の熱さに、まるで芸人のように大きな反応を見せた野々村さんに俺達は笑いを噛み殺した。