「す、すみません…私…あ、あの…すみませんっっ！」

にやにやする二人とは裏腹に、野々村さんが急にそう言って俺に向かってこめつきバッタのように忙しなく頭を下げた。



「ほら…カズがそんな怖い顔するから、野々村さんが怖がってるじゃない…」

「俺はなにも怖い顔なんて…」

「してる、してる。
なんなら鏡持ってこようか？」

「……いらないよ。
それに、野々村さん、あなたが謝ることなんてありませんよ。
顔を上げて下さい。
俺がちょっと怒ってるのはこいつらに対してなんですから。」

「は…はい……」

そう答えながらも、彼女は顔を上げなかった。



「カズ、彼女は本当に優れたライターだよ。
彼女の書いたブログは、僕達でさえ、カズ以外の人が書いてるなんて信じられない程だもん。」

「えっ！？もう書いてもらってるのか？」

「カズ…そんなこともチェックしてないなんてだめだなぁ…」

アッシュは呆れ顔でそう言うと、パソコンを開き、なにやらかちゃかちゃとキーを叩いて俺の目の前にそれを差し出した。



「ほら…見てみなよ。」



差し出されたパソコンの画面に映し出されていたのは、俺のブログ。
あの日…ゴーストライターのことを提案されたあの日から、なんとなく見たくなくなって一度ものぞいていなかった。
日付を見ると、その日から毎日ブログは更新されており、それを読み進めるうちに、俺は一瞬その日ブログを書いたんだろうかと奇妙な錯覚に陥った。



（……これは…）



その日の出来事はマイケル達に聞いたとしても、まるで本当に俺が感じたようなことが、しかも、俺の言いまわしで書かれている。
これを影武者が書いてるなんて、誰が考えるだろう…
俺のことを深く知れば知る程、これは俺の書いた文だと感じる筈だ。
呆気に取られた俺は、信じられない想いで、野々村さんをみつめた。