賢者のあやしい視線を感じたのかここあちゃんが不意に俺達の方を向き、そして、明らかに俺に向かってにっこりと微笑んだ。



「……ええのう…男前は…
あんなカワイコちゃんに微笑んでもらえるなんて……」

賢者の拗ねたような口調に俺は思わず失笑した。



「何言ってんだよ。
確かに可愛い子は好きだけど、俺にはひかりがいるからな。
それに、ここあちゃんにもハヤト君がいる。」

「おまえさんも可哀想にのう…
これが現実だったら、おまえさんもあの子と浮気するチャンスもあったじゃろうに。
しかし、ここじゃそんなことは無理な話じゃ。
たとえば、作者同士がコラボでもしてそういう展開にでもせん限り、浮気は出来んのじゃからな。
もしくは、おまえさんが…そしてあのここあちゃんもが名もなきその他大勢のキャラなら、そういうことも出来たじゃろうになぁ…」

「あのな、俺はひかり一筋だからそんな気持ちは全くない!
いくらここあちゃんが可愛くたって、浮気なんてする気には……」

そう言いかけた時、俺の頭の中にふともやもやしたものが思い浮かんだ。



「確認するけど……俺達、主要キャラは物語に大きな影響を与えることは出来ないんだよな?
大きな影響っていうと…たとえば男女間でいえば恋愛感情か…
ちょっと可愛いとか、良い子だなって思う程度じゃ物語はそれほど影響は受けない。
だからそこまでは大丈夫だよな?
……ってことはやっぱり…」

「そうじゃな。
つまり、エッチは無理ってことじゃな。」

「だよな!
だったら、なんで俺達は…」

「俺達…?
おまえさんとひかりのことか?」



そうだ。
今、俺達はこっちの世界にいる。
ここはひかりの設定通りにしか動けない世界。
ひかりは、まだ小説の中で俺とひかりが結ばれるシーンを書いてはいなかった。
なのに、俺達は結ばれた…



「おかしいじゃないか!」

心の中の想いが口をついて飛び出した。



「おかしい…?
どういうことじゃ?」

「だから……
実は、俺とひかりは、こっちに来るまでプラトニックな関係だったんだ。」

「プラトニックじゃと!?嘘を吐け…
おまえさんは遊び人で女にも手が早かったんじゃないのか?
現実には何ヶ月もおったんじゃろう?
それなのに、その間になにもなかったなんて、そんなこと…」

賢者は薄笑いを浮かべ、疑るような上目遣いで俺をみつめた。