なにもかもが好きなように出来る自由で魔法みたいな世界だと思ってたけど、そういうわけでもないんだなぁ…
こんなことなら、もう少しシュウが楽しいと思える設定をもっと書いてあげてたら良かった…なんて、今更言っても遅いんだけど…
シュウがスィーツ好きで料理もうまいって設定にしたのは私なのに、なんでもっと先のことまで考えられなかったのかな…



(あ、そういえば…)



「おじいさん…
よく『キャラが勝手に動く』なんて言う作者さんがいるよね?
でも、そんなことって現実にはないよね?
だって、キャラは作者の設定通りにしか動けないんだもんね?」

「……そうでもないぞ。」

「え…!?」

おじいさんの思い掛けない返答に、私は一瞬戸惑った。
そんなことあるはずない…きっと、そんなのは作者の一方的な思いこみなんだって思ってたから。



「そうでもないって…どういうこと?」

「つまりじゃな…
……長く愛着を持ってるものは使いやすくならんか?
たとえば、携帯だってペンだって、愛着をもって長く使っているものというのは、手に馴染むというのか…使っててしっくり来るじゃろう?」

「うん、そうだね。
特に、他の人の携帯ってどうも使いにくかったりするよね。
自分のがやっぱり一番使いやすい。」

私は、母さんの携帯を借りた時のことを思い出していた。
同じ機種だったのに、ボタンの押し心地とかちょっとしたことで不思議と違和感を感じたものだった、



「それは、ある意味、物と通じている…波長があってるとでも言えば良いかのう…
そういうもんなんじゃ。
増してや、小説のキャラは作者の魂の欠片を注ぎこまれておるから、作者の分身とも言えるもんじゃ。
物よりもさらに通じ合うのは当然じゃな。
そうなると、キャラの考えてくることを作者が知らず知らずのうちにキャッチして、それを書いてしまうことがあるんじゃ。
自分が書いていながら、他の誰かに書かされているような感覚…そういうのを『キャラが勝手に動く』と言われる状態じゃ。」

「へぇ~…本当にそういうことがあるんだ…
思いこみでも、錯覚でもないんだね。」

おじいさんは、私の言葉に満足したような顔で頷いた。