「おじいさん!ゴースト化した人に与えたら、元気になれる薬みたいなものはないの?」

「元気になる薬じゃと?
そんなものはありゃせんよ。」

おじいさんはいとも簡単にそう答えた。



「あのね、私、昔大好きだった小説があるの。
もうそのサイトは閉鎖されてるから、多分、あの小説は削除されてるか、或いは作者さんがプリントして持ってるかもしれないけど、あの時から書かれることはないし見る人はほとんどいないはず…
そういうのはゴーストもどきになるのよね?
それで、私、思ったんだけど……もしも、私みたいにその小説を大好きだった者が励ましに行ったら…もしかしたら、ちょっとくらい元気が出るんじゃないかな?
だって、私はその小説のことを今思い出してもドキドキするんだもん。
それって、心が動いたってことよね?」

「なるほどな…
今までおまえさんのような者がこの世界に来た事はないから、そういうことは考えたことさえなかったが…
確かに出来るかもしれんのう。
いや……これは本当に面白い発見じゃ!
早速、行こう!
今すぐ、その小説の世界へ!
わしも結果が知りたい!」

「えっ!い、今から?」

「そうじゃ、善は急げじゃ!」

賢者のおじいさんは予想外に私のアイディアに飛びついた。
でも、このことがもしも私の考えた通りだったとしたら…それはもしかしたら可哀想なキャラ達を救うことにもなるかもしれない…!
そう思うと、私もおじいさん同様に早くその結果を知りたくなった。



私達は、おじいさんに急かされるがまま外へ出た。
ここに来て、私はまだ自分の意志で他の世界に行ったことがない。
シュウが言うには、その物語のことを考えながら歩くだけで良いと言うんだけど、本当にそんな簡単に出来るんだろうか?
私はおじいさんの家の前で懸命に当時の記憶を思い出す。
あれから何年も経ってるから記憶もけっこう薄れてて…
思い出すのは、一番印象深かった二人のあの熱い……




「どうしたんだ?ひかり。
なんだか顔が赤いぞ。」

「な、なんでもないって。」

「そうか、それなら良いけど…それで、小説の内容は思い出したのか?」

「う、うん、だいたいね。」

「じゃあ、行くか。」

ま、全部を思い出さなくてもきっと大丈夫なんだと思う。



(さぁ、行くぞ!)

私は気合いを込め、ゆっくりと三人同じような歩調で歩き始めた。
不思議なんだけど、別に手を繋いだりしてなくても大丈夫みたいなんだ。
私は、シュウやおじいさんには悟られないように、頭の中でここあちゃんとハヤト君の激しい絡みを思い浮かべてた…