彼女は映画に集中などできるわけがなかった。

"今日のお前、可愛いな"

 その言葉が頭から離れず、深空は意と反して顔を赤くする。いつもみたいに自分が優位に立つことができない。やきもきしていた。

(…伸夫のせいだ)

 あいつがあたしのペースを崩した原因だ、と深空は思った。

(どれだけあたしの足を引っ張れば気が済むんだ、あの男は…)

 深空は少なからずショックを受けた自分に腹が立った。

(…もう終わったんだから、忘れよう)

 軽く頭を振り、気持ちをリセットする。そして彼女は、映画に集中した。