空席の目立つ座席…

 二人は一番見易い席を陣取り、売店で買った飲み物を飲みながら映画の始まりを待っていた。

 いつものような燃える闘志も、火が消えたように大人しい深空。二人の間には、会話がなかった。雄二は、いつになくしおらしい深空の横顔を見つめる。彼女のその横顔は、いつになく白かった。

 それはなんとなく寂しそうな…

 彼は口をつぐみ、そんな深空の肩をそっと抱いた。

 びっくりして、彼女は雄二の顔を見る。しかし雄二は何も言わず、深空の頭を自分の肩に寄せた。

「せ、先…」

 深空がそう言いかけると、彼は口に人差し指を立て、ニコッと笑ってみせる。深空は微かに香るタバコの匂いを感じると目を閉じ、そのまま彼に頭を預けていた。

 やがて館内が暗くなり、スピーカーからは大音量が流れはじめた。その時、雄二は深空にそっと耳打ちして笑う。

「!!」

 深空は、ムキになって雄二の顔を見た。しかし、彼は意地悪な顔して素知らぬ態度をとり、やがて始まる映画に注目していた。