「なんじゃ、その顔?!」

 横浜駅で、雄二の仕事上がりに合わせて二人が落ち合うと、深空のひどい顔を見た雄二は、顔をしかめた。

「……」

 深空は目を反らすと、キャスケッドを深く被り直し、ストールで口元を隠した。

「あぁ、聞かない約束だったよな」

 雄二は、帽子の上から大きな手の平で、ぽんっと叩く。そしてその大きなごつごつとした手は、深空の白くて細い指をそっと包み込んだ。

「模試作りやら、テキスト編集やらの締め切りがいっぺんに来て、原稿大変でさ。せっかく公開してんのになかなか行けなくてよ」

 深空の手を引き、西口に向かって歩きながら彼は言った。

「映画見るの?」

「そ。ナイトショウ」

 西口を出ると、そこは色とりどりのネオンが昼間のような眩しさを放っていた。その賑やかな夜の街に二人はそっと足を踏み入れる。そして、彼らはすぐに雑踏の中に紛れて行った。