ふと、彼らは他から受ける視線を感じていることに気付いた。深空は、振り向きその視線の元をたどる。

「…嘘」

 体中の力が抜け、今にも倒れそうになるのを抑えながら、彼女はベッドガードに手を付いた。

 彼女を見つめる、優しい目…

 さっきまでしっかりと閉じられていたあの目が、驚く彼女の揺れる瞳を捕らえていたのだ。

「…深空」

 掠れる彼の声を耳にしたとき、深空の目からは、いくつもの涙がこぼれていた。

「あ… あ…」

 何か言葉を口にしようとするも、頭の整理が付かず言葉にならない。雄二は、手を深空に差し出した。彼女はすかさず、両手で彼の手を握った。

「…いつもいつもホントに…、情けない男だよな、俺は…」

 意識を取り戻して最初に飛び出した言葉…

 彼は照れ臭そうに笑い目を伏せた。

「…いつも肝心なときに側にいられなくて、ごめん」

 彼のその言葉に、深空は強く首を横に振る。

「聞こえたんだ。あの子の声が…」

 雄二は、そっとこちらを窺っている深雪に視線を移した。

「そうだよ。大きな声であなたを呼んでいたんだから…」

 深空は深雪を引き寄せ、抱きしめた。

「目覚めたとき、一番最初にお前が目に映ってよかった」

 そう言って、雄二は白い歯を見せて笑った。

 深空は、ただ目を赤くして涙を流すことしかできなかった。

「もう、どこにもいかないで…」

 いつぞやの言葉。それは、一度は破られた約束だった。それでも深空は言わ
ずには、いられなかった。それは深空の素直な気持ちだった。あの時と変わらない。時が経っても、その気持ちに嘘はなかった。

「あたしの帰る場所は、もうあなたのそばしかないよ…」