翠の嫉妬心から生まれたこの事件は、関係した人間の心に深い傷として刻まれた。

 決して癒えることができない傷…

 深空達は、その傷を一生背負って生きていかなければならない。いつかその傷が絆へと変化し、深まっていくことを切に信じて…



「窓、開けようね」

 深空は、暖かな風を取り込むために、眠っている雄二に笑いかけながら話し掛ける。

「今日もいい天気…」

 あんなに美しかった桜は、もう緑の若葉で覆われている。雲のない空は、太陽の光を充分に纏い、どこまでも続く青い空だった。

 深空の隣に、退院したばかりの深雪が寄り掛かって、一緒に窓の外を眺めていた。しかし、彼女は不意に雄二の寝顔を見て口を開く。

「おじさん、まだねむってるね? もうおひるなのにね?」

「そうだね。少し、寝ぼすけさんなんだよ」

 深空は笑いながら、答えた。

「おじーさーん! おきろー!」

 深雪は、彼の耳元で彼の頬を軽く叩きながら大きな声を出す。その様子に驚いた深空は、慌てて深雪を制止した。

「何やってるの、深雪ー」

 苦笑いを浮かべ、深空は深雪の頭を撫でた。

「おこしてあげようとしたの」

 不満顔を浮かべて深雪が唇を尖らせる。

「もぉー、病院で大声だしちゃダメなんだよ。他の人に迷惑になるからね?」

 深雪と同じ目線の高さまでしゃがみ、優しく彼女を宥める深空。「はーい…」と少しだけしょげながらうなずく深雪。