(一番最初…)

 深空はうなずいた。

「母の遺品の中から、君のことを綴った日記が出てきたんだ。…こんなにも君と雄二が強く繋がっていたとも知らず、俺はあいつに結婚を勧めてしまった… あんな心に傷を負ってたなんて、知らなくて…」

 敬吾は寂しそうな表情を浮かべ、小さく笑った。

「俺は昔、あいつが愛していた人を盗った。本当は恨まれても仕方ない、どうしようもない兄貴なんだけど…」

 彼は、雄二が眠る病室に視線を走らせる。

「そろそろ、あいつにも誰かを幸せにする喜びを知ってほしいんだ。あんなに可愛い女の子もいるわけだし、あいつにも、親としての責任を果たしてほしいって思う」

 敬吾がそう語ると、深空は目にたくさんの涙を溜めながら、大きく首を振った。

「あの人は、充分親としての責任を果たしてくれましたよ…」

 深空の涙でかすれた声が、静かに廊下に響き渡った。敬語のと古葉に、胸が熱くなっていた。

「あいつは欲張りになってるはずだよ。多分、これからもずっと深雪ちゃんの親になりたいってね…」

 顔を上げると、敬吾は本当に優しい顔をして深空の目を見ていた。彼女は深くうなずくと、流れ出る涙を手の甲で拭う。そして、いつもと同じ場所にある"心"が、熱く奮える。

 暖かい気持ちがあふれそうになり、彼女は両手でその思いを受け止めるようにして胸に当てていた。