「深雪…!」

 目の前のベッドに横たわるのは、紛れも無く深雪本人だった。手首には、ロープで縛れた跡がくっきりと残っており、深空はそれを優しく摩りながら、深雪の顔を眺めていた。

「ママ、またないてるの? みゆきがいなくてさびしかった?」

 深雪はニッコリと笑いながら、涙を流している深空に言った。深空は何度もうなずき、我が娘を抱きしめた。

「怖かったでしょ? ごめんね」

 抱きしめたまま、深空は深雪の耳元でそう言うと、深雪は首を横に振ったのだ。

「あのおねえさん、すごくやさしかったよ」

 深雪は、真顔で答えていた。

「え?」

 深空は、深雪の意外な返答に目を点にする。

「なきながら、みゆきのてをひもでむすんでた。それでね、みゆきがねむくなっちゃったら、おうたうたってくれたよ。ママがいなくても、さびしくないようにって」

 深雪のその言葉に、深空の頭には初めて家に来た時の翠の顔を思い出す。
 真剣な顔をして、『深雪ちゃんをください』と言った時の顔だ。

 あの時、彼女は本気でそう言っていたのだろうか?

 雄二とやり直すために、本気で深雪の母親になろうとしていた…?

「そう。よかったね」

 そう口にしながら、深空は深雪の頭を優しく撫でると、深雪は満面の笑みを浮かべた。そんな彼女を深空はまた強く抱きしめる。

「…生きててくれてありがとね」

 零れる涙など拭いもせず、娘の暖かさを実感するように深空は目を閉じてそうつぶやいていた。