「じゃあ朔ちゃん、今から行くね。待ってて!絶対待っててね!」


お財布、タオル、飲み物、ICカード。必要最低限のものを、すべて詰め込んだ。


『……君花』

「ん?」


最後に、弱々しくなっている朔ちゃんの声に、耳を傾ける。



『俺も、会いたいよ』


「…っ、」


朔ちゃん。



「うん、今から行くよ。待っててね!」

『ありがとう』



朔ちゃんが、会いたいって言ってくれた。もうダメだと思ったのに、わたしに会いたいって言ってくれた。

もう、それだけでよかった。


アニカに、簡単に連絡した。

それから、今までの記憶をたどりながら、靴を履く。



「…朔ちゃんが、いそうなところ」


ずっと、隣で見てきた。きっと誰よりも、わたしは彼のことを知ってる。

わたしと朔ちゃんの記憶を辿れば、きっと交わるところはあるから。


…それだけを、頼りに、わたしは朔ちゃんを探しに行くよ。



「…飛呂くん…」


飛呂くん、ごめんね。

わたし、これからあなた以外の人のところに行くけど、それは伝えないでおくね。

また、ちゃんと話して整理ができたら、そしたら、1番に会いに行くから。


「よし!出動!」



…どこまでもずるいわたしは、そんな自分にサヨナラをするために、家を飛び出した。