『……………もしもし』
電話の向こうで低い声が聞こえたのは、コールが鳴り響いてしばらく経った後。
…出た。
『……君花?どうしたの?』
「……朔ちゃ…………」
懐かしい声。
1週間ちょっと、2週間も経っていないのに、声を聞いただけで、鼻の頭が痛くなってきた。
ようやく聞けた。
そして、ようやく一歩、踏み出せる。
「…朔ちゃん、今どこにいるの…?お話したいことがあるの………」
震える声で、精一杯絞り出す。
こたえて、朔ちゃん。
『…俺も、君花に話したいことはたくさんあるよ』
「朔ちゃん」
『でも、どこにいるかは…言いたくない』
「…」
優しいのに、どこか冷たい声。
こんな声を聞いたのは、初めてかもしれない。
「…ど…して?」
『…分かんない。でも、言いたくない』
珍しく拗ねたようにワガママを言う朔ちゃん。でも、言いたくないってことは、家にはやっぱりいないんだね。
…だとしたら。
「…朔ちゃん、わたし、今から朔ちゃんを探しに行ってもいいかな」
時計を見る。まだお昼前。1日はまだまだこれからだ。
今日中に見つける。見つけられる。
『…いーけど。本当に探すの?』
「うん!朔ちゃんと、ちゃんとお話したいの!」
『……そっか』
いいよ、と、電話の向こうの朔ちゃんは呟いた。その声は、さっきよりも少しだけ優しかった。
わたしは、朔ちゃんと話しながらバックに必要なものを入れていく。
朔ちゃんがものすごく遠くにいる時は、こうやって探すことを許してはくれない。絶対来るなって言う。
でも、それをいいよって許してくれるってことは、きっとわたしが行ける範囲にいるんだ。
…そう、信じてる。