そう思うと、身体が固まって、またこわくなってくる。

だって、飛呂くんは、わたしが他の人とキスをしてしまったと聞いたらどうなる?

さっきも、あんなに辛そうな顔をしていたのに…。


「…」


切り出すタイミングが、なかなか掴めない。
というか、ほんとうに、話すのがこわい。


「…ヒヨコ」

「…!」


飲み物を飲む気にもなれなくて、下を向いて自分の足ばっかり見てたら、飛呂くんがわたしの頭に手を乗っけて名前を呼んだ。

その仕草に、またどきっと心臓が跳ねる。


「…飛呂くん…」

「…全部おしえて。ちゃんと、聞くから」

「…っ」


無表情だけど、どこか優しい顔。
きっと、この顔を向けてくれるのは、わたしだけだ。

飛呂くんは、わたしにしか、こういう顔を見せてこなかった。それは、よくわかってる。

…分かってるから、言おうと思ったんだ。
勇気が出た。

飛呂くんは、ほんとうにわたしのことを好きでいてくれてるって、感じるから。



「…昨日、夕飯を届けに、朔ちゃんの家に行ったの」



だから、わたしも、ちゃんと向き合わなきゃ。

目の前の人を、傷つけないためにも。