はぁ…と、熱い息を吐いて。


「…むかつく」


そう呟いて、飛呂くんは離れた。


「…飛呂くん…」

襟を直して、飛呂くんと向き合う。

だめだ、これ以上傷つけたら。

傷つけたら、だめなんだ。この人だけは。


…だけど…。


「…昨日、何があったか話して」

「…っ」

「話して」


だけど、話していいのだろうか。
わたしが話すことによって、この人はもっと、傷ついてしまう。
それは分かっているのだから。

…そう思うと、泣きそうになる。

泣いたらだめだと分かっている。泣いたら、ずるい。最低だ。


でも、声が出せないわたしに、飛呂くんはやさしく言った。


「…俺は、きみかの全部を知りたい。傷ついてもいーよ。だから、教えて欲しい…全部」


彼は、まっすぐにわたしを見て、そう言った。

…飛呂くんは、向き合おうとしてくれてるんだ、わたしと。


「…ここじゃ、先生来ちゃうから、屋上、行こう」

「…ん」


本当に、心から自分が嫌になる。
でも、飛呂くんが話して欲しいと言っているのなら、わたしは話さなきゃいけない。

…どんなことがあっても、わたしはこの人が好きなのだから。

それを、伝えるためにも、ちゃんと、昨日のことを話さなきゃ…。