「…これ、なに…」
飛呂くんの止まった手に触れた瞬間、そう呟かれる言葉。
まるで絞り出すように発せられた声は、その表情とともに震えていた。
「…え…?」
人差し指で指されているのは、首筋。これ何と聞かれても、何もわからなかった。
「なにって、何…」
「赤くなってる。誰につけられたの」
……………え…?
赤く、なってる…?
朝髪を結う時も、考え事ばっかりしていたせいで、ちゃんと鏡を見てこなかった。
だから今になって、慌ててポケットから鏡を取り出す。
「……………これ…」
飛呂くんから触れられたところには、赤い1センチほどの痕が、確かに付いていた。
「…っ」
その姿を見た瞬間に、ハッとなる。
…昨日、最後に、朔ちゃんが触れていた場所だ。
「…心当たりあるわけ」
飛呂くんは、鏡を持ったまま固まっていたわたしに聞いた。
その声は、やっぱり少しだけ震えていた。
何も言い訳できないわたしに、怒りと悲しみが募っているんだろう。
…本当に、わたし、何をやっているんだろう。
大事な人、2人とも傷つけて、わたしは…。
「…あいつがやったの?」
「…」
なんて、言えばいいんだろう。
何も言い訳できない。どこから話せばいいのかわからない。
違うんだよ、と言いたい。だけど、言えない。朔ちゃんがすべて悪いわけじゃなかったから。
「…ごめんなさい……………」
何もできないわたしは、ただ、この言葉をつくることしかできなかった。
…なんて、情けない言葉だろう。