その夢から覚めたのは、カーテンを開ける音がひそかに聞こえてきたからだった。

「…」

スッと目をあけると、ぼやっとした、保健室の白い屋根が目に映った。

…あぁ、わたし、今眠っていたんだ。

そこで、ようやく夢だったことに気づく。



「…きみか、」

「…っ!」


名前を呼ばれて、そこに人影があったことにようやく気付いた。


「…あ…」


そこにいたのは、心配そうにわたしを見る、飛呂くんの姿だった。

キィ…と、丸椅子を持ってきて、わたしのそばに座る。


「…岸谷から聞いた。ちょっとは寝れた?」

「あ、うん…さっきまで爆睡してて、飛呂くんを見てやっと目が覚めたよ」

「…そうか」


クス、と、鼻で笑うと、飛呂くんは躊躇いがちに左手を伸ばしてきた。

ほんの少し、まだ震えている手は、おそるおそるわたしの額に触れる。


…あぁ、これだ。これが、飛呂くんの、わたしへの触れ方。

不器用に、でも、やさしく、わたしに触れる。


「…熱は、ないな」

「大丈夫だよ」

「…」


そうか、と、もう一度呟くと、額に当てた手を、左右に動かす。

やさしく、まるで羽が触れるように、なでなでと頭を撫でられた。
その心地よさに、やっぱり心から安心する。

…そして、どきどきした。


「…飛呂くん…」


思わず、つぶやく。
大好きな人の名前を。

手の感触を感じたくて、そのまま目を閉じる。そのあとも、飛呂くんは、ずっと頭を撫でてくれていた。


「…きみか、」


近くで、名前を呼ばれて。

薄く目を開けて、飛呂くんの方を向いて。

なあに、と、言いかけた時、


「…んっ」


…飛呂くんの顔が近づいてきて、そのままキスを落とされた。