学校に着いて、飛呂くんと顔を合わせても、わたしは心から笑えなかった。


「…ヒヨコ、どうした、そのクマ」


…飛呂くん。ごめんなさい。
わたしは…昨日…。


「ううん、ちょっと寝付けなくて…ごめんね」

「……俺からのライン見た?」

「うん、でも、その時お風呂入ってて。遅くなっちゃったから…ごめんね」


ろくに顔も見れないまま、カタンと椅子に座る。


「…っ」


それ以上、飛呂くんは何も言ってこなかった。

だからわたしは気づいていなかったんだ。飛呂くんが、あることに気づいていたことに。





「君花、どうしたのそのクマ?!」


アニカにも、びっくりされてしまった。

学校にくるなり、化粧ポーチをばら撒いて、トイレに連れていかれる。

何をされるのかと思いきや、ファンデをぱふぱふと付けられた。


「こんなヒドイ顔見たことないよ!てか、泣いたの?!」

「…う、ううん、ただちょっと…寝付けなくて」

「ええ?!なんでよ!」


…理由、言っても、いいのかな。
でも、幻滅しちゃうよね。彼氏いるのに、幼馴染の家に転がり込んで、それでキスされてしまうなんて。

…幻滅は、されたくない。


「…君花…。理由、言いたくないならいいけど、何かあったら話してね」


…アニカ。


「うん、ありがとう」


アニカ、わたし、最低なんだよ。

傷つけたくない、大切な人を、今までたくさん傷つけてきたのかもしれないんだよ。


「とりあえず、あんたちょっと保健室行ってきな。顔色悪いし」

「大丈夫だよ、このくらい…」

「だーめ。ちゃんと休みな。ノートはとったいてあげるから!」

「…」


うん、と、頷くと、アニカはにっこりと笑って、保健室まで付いてきてくれた。


…朔ちゃん。

朔ちゃんは、ちゃんと、眠れてたかな。

ちゃんと、学校来れたかな。


…そんなわけ、ないかな。